トッカグンとの遭遇。

僕は陸も海も空も辞めたダメ元自衛官

殺す気でやれ!!

 柔道と剣道、どっちがやりたいか?
 上官からのこのような何気ない言葉により、僕たちは訓練の中で柔道をするグループと剣道をするグループとに別れた。
 週に数回。そんな頻度で数ヶ月行っていた。
 ちなみに僕は剣道を選択したが、みんな選択理由はそれぞれだった。
 どっちが楽そうだとか、柔道の方が道具が少ないからとか、あまり前向きな理由で選択決定していた人がいなかったように思う。
 そしてあれは剣道の訓練初日のことだった。 
 剣道は、剣道に専門性のある人が指導教官に選ばれていたようで、教育期間中に初めて見る方が道場に現れた。
 ぱっと見た目は、初老、おだやか、ものしずかな、おっとりした方、と言う印象を受けたのを覚えている。
 その場にいた僕を含めたほとんどの同期が心の中でこう思ったはずだ。
 「剣道、楽になりそう!」と。
 剣道の訓練が始まり、基本を習ってすぐに乱取り?とでも言うのだろうか?
 1対1の試合みたいなものを始めたのだが、みんな素人で剣道と言うにはほど遠く、俗に言う「ちゃんばら」に近かった。
 試合の最中、ある隊員が、もう一方の隊員の防具がない所に竹刀を打ち当てた時、痛がる隊員に心配そうに「すみません。大丈夫ですか?」
と声をかけた時だった。
「すみません?!大丈夫ですか!?お前ら殺す気でやれ!!!」
と、さっきまで穏やかだった剣道の指導教官が鬼の形相で怒鳴り始めた!
もう勘弁してくれと言う位の訓練をさせられた。
剣道を選択した後悔の始まりだった。
しかし、たまらなかったのは、ぼくらの様な素人ではなく、同期の剣道経験者たちだった。
教官が鬼モードに突入後、同期の剣道経験者を選び出し、経験者達がボロクソになるまで、しごきたおしていた。
経験者は複数いたのに対し、剣道教官は1人。
それでも教官無双の炸裂は終始とめられなかったのだから恐ろしかった。