辞めたいです。
教育期間中のある日。
場所は隊舎の屋上だった。僕らは、「目視で距離感覚をつかむ訓練」をしていた。
屋上から見渡し、区隊長が見える建物を指差し、距離にしてどのくらいあるのか?
と言うことをあれこれ教えてくれる内容だった。
屋上から下がる時、区隊長が最後に降りるように思えたので、ぼくは他の隊員に聞かれないよう区隊長と同時に屋上から降りようとした。
その時、ついに言ってしまったのだ。
ずっと隠していた本心の一言を。
「区隊長、ぼくは自衛隊を辞めたいです。」
区隊長は、こう切り返した。
「そうか。わかった。まずは話そう。」
その言葉が返ってきたのみだった。
即決してほしかった僕としては、納得のいかない区隊長の返事に不満を抱いたが、その場はそれで終えることにしたのだった。