入隊は?訓練は?まだか?
もう良いだろ!
朝から夕方まで、飯を食べる時間以外は、ほとんど縫い物だ。
帽子から衣類。
支給されたほとんどのものに、名札を着けろとのことだった。
几帳面なヤツは、まるでミシンでも使ったかのように丁寧な縫い方だった。
しかし、一方では名札の4つ角だけ縫うことで、まるで安全ピンで留めたかのような縫い方をしてるヤツもいたものだった。
だが、みんな名札の縫いつけには、同じ箇所で時間を食っていた。
弾帯(だんたい)だ。
腰に巻くベルトの様なものだ。
ベルトはベルトとして巻くが、戦闘訓練の際には、ベルトの上から、さらに弾帯を巻くのだ。
この弾帯、戦闘訓練時、匍匐全身(ほふくぜんしん)を行っても、破れたりすることのない強靭な帯なのだ。
それゆえに、名札を縫いつけようにも、針が帯を簡単には通らなかった。
親指で針を押し込もうものなら、親指に針が貫通してしまいそうだった程だ。
そこで10円玉を親指の腹に乗せて針を押し込んでいたのだが、弾帯に名札を着けるまでに、針を折ることすら、珍しくなかった程だった。